こん恋 ーstory002:Kazuomi.
こんな恋を、用意しました。
‘‘一番線のホームに電車が参ります。
白線の内側まで
下がってお待ちください’’
「えっ?
あ、悪い。アナウンスと
かぶって聞こえねんだわ」
電話口に向かって話す僕の
声のボリュームが大き過ぎたのか、
ノブが少し笑った。
『こっちは
バリバリ聞こえてるから、
普通の声で大丈夫だよ』
「あー、そっか」
『そんくらいでちょうどいい感じ』
どんくらいなのか
よくわかんなかったけど、
僕はとりあえず笑って続ける。
「で? どした」
『そうそう。
明後日の飲み会だけど
カズ、やっぱり来れない感じ?
真白ちゃんの誕生日だったっけ?』
真白。
名前の通り
色が白くて、笑顔がほわっとした
僕の彼女……
だった、人。
「んー……行ける」
『は?』
「ダメなの?」
『いや。
来て欲しいから電話したんだけど、
本当に大丈夫なのかなと思って』
「大丈夫に、なった」
たぶん、
僕の言葉のニュアンスを
読み取ってくれたんだろう。
ノブは何も言わず、
少し長く息を吐いた。
‘感じ’という口グセに、
時々若干イラッとするけど。
僕は
こいつのこういうところに、
結構救われたりしてるんだと思う。
『……どっちから?』
「どっちだろうなぁ」
少し笑けたのは、
実際別れを経験した僕よりも、
淋しそうな声を出した
親友の優しさに。
――どっちだろうなぁ。
この言葉はたぶん、間違いじゃない。
付き合い出してすぐ、
お互いに違和感を覚えていたはず。
何とは言い切れないけど、
何かが違っていた。
何かが
というよりも、何もかもが。
観る映画。
聴く音楽。
何が楽しいのか。
何に気が重くなるのか。
何も、かも。
違ったタイプの人間のが
相性がいいとか言うけど、
違いすぎるのも……
それはそれで、どうかと思う。
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「一臣、ごめんね」
真白からこぼれた言葉は、
本当に申し訳なさそうで。
そういう、
やけに生真面目なとこを
目の当たりにすると、
やっぱり可愛いなぁと思う。
だけど、
どこかホッとしてた。
そっちから切り出してくれたかって。
「いや、謝んのは違うしょ。
真白が悪い訳じゃないんだし」
「でも……
一臣が悪い訳でもない」
「だからさ」
少し強い口調の僕に、
真白はピクっとした。
驚いたというよりも、
何かに反発するような目をして。
「謝るのは、違うしょ。
お互い悪くないんだから。
しょうがないよ、こればっかりは」
僕の言葉に、
真白は少し呆れたように笑った。
「自分のことなのに、
他人の恋愛相談受けてるみたいだね」
「え?」
「……思ってたよ。
付き合ってる間、ずっと。
私、誰と付き合ってるんだろうって」
「僕でしょ」
「わかってるけど……
一臣はその、なんていうのかな。
いつだってフラットっていうか」
「そんなさ、
付き合ってキャッキャするほど
僕たち若くもなくね?」
「でも、
最初から落ち着くほど
私たち、年を重ねてる訳じゃない」
「そら、そうかもしんないけど……」
23て
恋愛において、いったい
どんな位置でいればいいんだろう。
だけど、これだけは確かだ。
18の時の恋愛を
今しろと言われても、きっと無理。
さすがに、毎日何通も
メールをやりとりするほど、
恋だけに集中は出来ない。
「……やめよう。
こんなこと言い合っても
なんにもならないよね?今さら」
僕は真白のこういう、
ちょっと嫌な感じの女っぽさが
好きになれなかったな。
最後まで。
という言葉は、そっと飲み込んだ。
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『おーい、カズ?』
ノブの呼びかけに、
僕の回想は終わりを告げる。
それと同時に、電車が目の前に
滑り込んで来ることにも気づく。
「一旦切るわ。
電車乗れって言われてるし」
『誰に言われてんだよ』
「発車ベル」
じゃーな、という
笑い混じりのノブに、
あとでかけることを告げて
ドアが閉まる寸前に
電車に乗り込む。
走り出した
8時過ぎの山手線は、
たくさんの人を乗せて夜を走る。
窓に浮かぶ僕の顔は、
意外にも普通に元気そう。
別れを予感していたとは言え、
僕は真白のことを好きだった。
だから付き合ってた訳だし、
たぶん
彼女が別れを切り出さなければ
このまま付き合っていたと思う。
誕生日を過ごす気、満々だったし。
でも、僕たちは別れて。
明後日の彼女の誕生日に
僕はせっせと、
飲み会という名の
合コンに行くんだろう。
「矛盾だらけっすね」
窓に映る若者に、そっと呟く。
ひとつの恋が
終わることに慣れてしまったのは、
いつの頃からだろう?
この恋以外、考えられない。
という思想は、いつの間にか
どこかに置いて来てしまった。
それを
持ち続けていたい訳じゃないけど、
恋をすることが
義務になってる気がしてならない。
これが、
大人になるってやつなのか?
そうなんだとしたら……
大人になるって、なんか重たいわ。
恋に恋してた自分が、
少しだけ懐かしい気がする。
なんてことを言って、
実際は
そういう言い訳を並べて、
彼女がいなくなった寂しさを
消してるだけなのかもしれない。
つまり。
自分がどんな
恋愛をしたいかなんて、
まだわかってないんだと思う。
「……だから振られんだな」
僕は携帯を取り出して、
飯野真白を電話帳の画面に出す。
あまりためらいなく
消去出来るというのが、
彼女への
気持ちの度合いなんだと気づく。
電車を降りたら、
まずはノブに電話をかけよう。
それから
話しそびれた、
今日の出来事を話す。
ノブ、僕さぁ……と。
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